【レビュー】映画「サイレントヒル」(3) 灰の向こうより、「母」を探し続けた娘

第三回です。前回はこちら。今回は演出のメタファー(暗喩)について。この監督は結構そういうの好きみたいですね。
 

 

6.作中の様々な殺し方・殺され方
 映画の中の教団信者達は中々悲惨な殺され方ですが、この殺され方にも色々意味がありそうです。
 たとえば中盤、教会に逃げ込む寸前のあの痛いシーン。女信者アンナが三角頭に殺される場面ですが、でかい鉈とか持ってるはずなのに、素手でわざわざ生皮を剥いで扉に投げつけるんですね。相当怒っています。そしてこの行為にはストレス解消以外にも理由がありそうです。皮を剥ぐというのは信仰心やら正義やらの内に隠された「本性を露わにする」ことを意味しており、扉に(信者達の方へ)投げつけるのはその本性、つまり狂信者達の罪・悪徳・憎悪というものを彼ら自身に思い知らせる意図があるのではないかと思うわけです。というのはですね、寸前のシーンでダリアが「羊の皮を被った狼たちに騙されるな」と狂信者達を揶揄するんですね。そのすぐ後にカワハギーの場面。単なる偶然でしょうか...。アレッサは犯した罪のせいで地獄のような世界に迷い込んでもなお悔い改めようとしない妄信的な信者達に、日々はらわたが煮えくりかえっていることでしょう。あの行為はアレッサから狂信者たちへの一種のあてつけという訳です。
 
 そういう、狂信者達の歪んだ信仰心に対する反感・侮蔑心のようなものが同じくクライマックスの教会内虐殺シーンの一幕でも感じられました。クリスタベラが有刺鉄線でばらされてしまうあのシーン、最初に突き刺す部位が"あそこ"ですよね。思わせぶりなアングルなどからあれは処女を奪うことの暗喩と見て良いと思います。あのおばさんは見た感じ、旦那も子供も居ないようです。つまり禁欲的に生きるというのはクリスタベラにとって信仰の一つの体現であって、彼女にとって処女であることが純潔・聖性の証であり、逆に処女を奪われることは罪人に落ちるとまでは行かないとしても純潔・聖性を失うことに繋がると考えることも出来ます。アレッサの憎しみはただ殺すに留まらず、クリスタベラの信仰心までも陵辱しなければ気が済まなかったのかもしれない。相当激しい憎しみだった訳です。
 
 
7.ローズの服の色
 作品を何度か見直して気付いた方も居るんじゃないでしょうか。実はローズの服の色が作中で変化しています。最初のローズの服は地味な寒色系?なんですが、最終的に上下とも赤色に変わります。ローズは一度も着替えないので、これは服自体の色が変化したということです。アハ体験ですね。初見で気付かれた方はすごいと思います。
 
 一応天下のハリウッド作品なので衣装さんがうっかりミスったとかではないはずですので、これは意図的な演出でしょう。服の色が明確に変わる瞬間は後半、裏世界の病院地下でアレッサの病室に辿り着き、サイレントヒルの真相について聞かされた時です。(セクシーナースを抜けた後のシーンです)
 
 赤色というのは、恐らく炎を意味しているのではと思いました。憎しみの炎、復讐の炎、怒りの炎。サイレントヒルの真相とはつまるところアレッサの苦しみの物語であり、それを聞かされたローズの中にアレッサの憎しみと怒りが乗り移ったことが、赤くなる服に象徴されていて、そこには加えて娘シャロンが焼かれそうになっている母ローズ自身の怒りも含まれているのでしょう。
 
 この後闇アレッサ?がローズの中に憑依して教会へ乗り込んでいくわけですが、そこからは三角頭に代わり今度はローズがアレッサの代理人となり、大鉈ではなく真実を突きつけて狂信者たちを糾弾するわけです。歪んだ信仰の下異端者と認めた者を焼き殺してきた彼らが、今度はローズという炎によって焼き尽くされるという皮肉的な因果応報の図が、ローズの赤い服に象徴されているのではないかと思います。
 
 
 
 ここまで描き溜めていたので、とりあえず連続投稿です。次回は作品のテーマである「母性」などについて書いてみたいですね。次回はこちら