【レビュー】映画「サイレントヒル」(4) 灰の向こうより、「母」を探し続けた娘

少し間が空いてしまったが第4回、ひとまず今回で一区切りに。前回はこちら

 

今回は作品の最大のテーマであろう「母性」について書いてみます。

 

 

1.「母性」

作品の中には二人の母が登場します。一人は物語の主人公であるローズ、彼女はシャロンの母親です。もう一人はアレッサの母親であるダリアですね。

 

シャロンというのはアレッサから切り離された片割れのような存在であり、二人は同一人物と言っても良いです。とすると、アレッサには二人の母親が居るということになります。そして二人の母親は、物語の中で対照的です。

 

まずダリアはアレッサの実の母親でありながら、姉と教団の圧力に屈し娘を差し出してしまいます。弱さ故に仕方がなかった点もあれど、結果的に彼女は娘を守れなかった

一方でローズは血の繋がらない義母でありながら、悪夢のようなサイレントヒルの中で危険を顧みずシャロンを探します。彼女はどんなことがあっても娘を守ろうとする

生みの母が娘を見捨てる

育ての母が娘を守る

きれいな対比を描いていますね。このようにしたのは、母性とは血の繋がりがなくとも持ちうるものであり、その無条件の愛としての側面を表すためではないかと私は思います。

 

無条件の愛という点で言えば、実は作品の中にはもう一人母親のアイコンとして機能する人物がいます。シビルです。彼女は子を持つ母親でこそないが、やはりある種の母性を持っています。か弱い子供に無条件に慈愛を注ぐ、作品の中では聖人のような存在ですね。だからこそ「殉教」することになるのかもしれません。

 

アレッサから見て、二人の母のどちらにより母性を感じるかは明白だと思います。最終的にアレッサは血の繋がらないローズを母親として選びます。それは、ローズをダリアよりも母親としてふさわしい存在と認めたからに違いありません。

 

作中で印象的な台詞があります。何度も出てくる、重要な台詞です。

「子にとって母親は神に等しい」

この台詞は、「母性は神の慈愛に近い」ということを表しているように思います。

 

母親というのは子供を無条件に愛し、護ります。そのようにして母親から注がれる強い母性を肌に感じながら、子供は安らぎを覚えます。神の慈愛も、神から無条件に愛され見守られているということを信仰の中で感じることにより、人は人生に救いを覚える。

 

子供は一人で生きられないか弱い生き物ですが、大人となった人間もやはり心の弱い生き物です。母の母性にしろ、神の慈愛にしろ、強く愛され護られることを希求しているという点で大きな違いはない、そんな風に私には思えます。

 

 

2.映画版「サイレントヒル」は何を描いたのか

私はこの物語の真の主役はアレッサであると考えています。物語を理解するにはアレッサが何を望んだのかという観点で考えてみるのが良いと思います。

 

作中の時系列を考えると裏世界に居るアレッサの本体は40歳近くになっているはずです。もう立派な大人ですね。しかし彼女の中身は誰も味方の居なかった寂しく苦しい子供時代の頃のままです。実母のダリアに見捨てられてからというもの、ずっと母親の愛を求め続けていたんですね。そこにやっとローズという強い母性を持つ母が現れた。それはアレッサにとって神を見つけたに等しいことです。だから彼女はシャロンとローズを自らの元へ呼び寄せ、憎しみと復讐に終止符を打って安息を得ようとします。

 

作中ラストの過激な復讐に目が行きがちですが、実のところ復讐自体はアレッサにとってそこまで重要なものではないと思います。

日々の復讐はアレッサにとって暇つぶしや気晴らし程度のものであり、最後の虐殺も復讐の日々に終止符を打つという意味での一掃でしょう。それは自分の世界から憎しみの対象を一掃するということでもあり、つまりは彼らが不要になったということです。ローズを見つけて母の愛を手に入れたことで、彼女にはもう憎しみや怒りで心の空白を埋める必要がなくなったのではないかと思います。

 

自分の造り上げた世界の中で、母と子としてローズと二人きりで生きていくであろうことが暗示されるラストシーン、愛情を持って育ててくれた義父すら自分の世界に入れさせないことからも、母親以外何も要らないのだという思いが見て取れます。あれを見ても分かる通り、アレッサが唯一求めていたのは母親の絶対的な愛、母性ですよね。

 

そこまで偏執的になるのはやはり、実の母親であるダリアに見捨てられたことが大きいでしょう。もしダリアがアレッサを護り続けようとしたならば(結果的に娘を救えなかったとしても)、アレッサの心はダリアの母性に触れて憎しみと怒りに支配されずに済んだのかもしれません。それだけ母親に愛されていたと感じられるかどうかは、子供にとって重要なのだということです。やはり子にとって、母親は神なのです。

 

この作品はローズが娘シャロンを探す物語ですが、アレッサという少女が母親の愛を求め続けた物語でもあります。それを踏まえ、アレッサの長く苦しい人生に安息が訪れたと考えれば、もの悲しいラストシーンも少し違った見え方になるかもしれません。

 

 

 

4回にわたり取り留めなく書き連ねてきました、最後まで読んでくださりありがとうございます。