【エッセイ】ドラマ「ウエストワールド シーズン1」雑感。

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久方ぶりにこんなに面白いドラマを観た。

天邪鬼な逆張り野郎なので、いつも流行ってるドラマ・映画なんかは安定の総スルー。ブレイキングバッドもゲームオブスローンズも、みんなが楽しみ尽くして流行が完全に終焉した頃に独りで見始めて、「なんだこれ!超おもしい!」とかはしゃいでる残念なタチである。今回も例に漏れない。

けどウエストワールドって、24やGoTほどは話題になっていなかった気がする。 あらすじをそれとなく眺めて興味を抱くまで、このドラマの存在というものをてんで知らなかった。これは(日本においては)隠れた名作と言って良いと思う。

今回は「雑感」なので、とにかくこの傑作ドラマの良かった部分や好きなとこについて書き殴るだけの文字の暴力であり、分析的なレビューとかは気が向いたらまた書くかもしれない。とにかく今回はこのドラマがとんでもなく素晴らしいということだけ理解してページを閉じてくれたら結構であります。

 

 

 

「ウエストワールド」というドラマ

知ってる人は(とっくに)知っている、知らない人は覚えてね。という訳で、まずはこのドラマについてさらっとご紹介。

エストワールドとは、アメリカのHBOが制作したテレビドラマで、原作は70年代の映画だがそれとはほぼ別物と言っていい。現在シーズン3まで作られていて、シーズン4は制作中。自分が今回観たのはシーズン1で、シーズン2以降はまだ未見。「おいおい、全シーズン観てから物申せ」と思われた諸兄方に断っておくが、シーズン1(S1)だけでも大丈夫なのである。なぜなら、S1だけで完全に物語として完成しているので。過激なことを言うと、もうこれに続編要らないのでっ!(S2・3はいずれ観ようとは思う、でもあんまり興味ない)

このドラマはアンドロイドをモチーフにしたSFだ。もし人間の被造物である人工知能を持つ機械に意識が宿ったら、というSFモノにおいての王道な主題を扱っている。ただこの話の取り分けユニークな点は、アンドロイド達が使役されているパークの存在だ。

パークは分かりやすく言えば、金持ち達のためのVR(仮想現実)世界。ただVRゴーグルで観る描画された3DCGの世界ではなく、アメリカのどっかの田舎を丸ごと買い取って、現実の中に造られたテーマパークとしてのVRである。これは現実に構築された、ビデオゲームにおけるMMORPGオープンワールドゲームのようなものに近い。そこでアンドロイドはホスト(役者)として振る舞い、1日4万ドル(たった1日で!)を払ってパークへ遊びに来たゲスト達の欲望にせっせと奉仕している。つまりは人間のどす暗い欲望を満たすために造られた、オトナのディズニーランドみたいなもんである。

ママ~、具体的に何するの~とちびっ子に聞かれたら、「もし人間そっくりの何しても構わない従順なアンドロイド達が目の前に居たらすることだよ」とぼかしておけばいい。オトナ用の返答は「ヤるか殺るに決まってんだろ!」。殺伐とした世界である。あのGoT(ゲームオブスローンズ)のHBOなのでお察し頂きたい。

自分はゲーマーなので、このパークの設定がすんなり腑に落ちてくる。パークはビデオゲームの舞台となるマップで、アンドロイドはNPCであり、セレブ達はプレイヤーだ。パークを管理する社員達はゲームの開発運営スタッフといったところ。この物語はつまり、ビデオゲームにおけるNPCに焦点を合わせたお話で、もし私たちに奉仕するためだけに存在するNPCに意識が宿ったらというお話でもある。ゲーマーだったら興味を持たない訳がない。

そんなこんなで扱うテーマが既にどストライクだった訳だが、その語り方もとんでもなく秀逸であり、伏線の張り方や演出が最高すぎてぶっ続けで二回観た。これ以降その興奮を羅列する。

 

脚本と演出が、すごい。

エストワールドS1は10話構成の物語だが、大体10時間半くらいのボリュームを使ってストーリーを演出している。

なんか登場人物はいちいち謎かけみたいなことばっか言いやがるし、群像劇で話があっちこっち飛ぶし、一見分かりづらいのだが、実は全部が巧妙な伏線で、時系列なども理解すると「あぁ~なるほど、そういうことだったのか!」とアハ体験できるようになっている。この脚本と演出がとにかくすごい。

一周目は謎めいた演出と、連続ドラマ特有の先が気になる的作り方(クリフハンガーとかいうやつだ)を使って視聴者をぐいぐい引っ張っていく。二周目は今度は、全人物の真相を知った上での答え合わせとなる。これがまた楽しい。一周目で登場人物達がのたまっていた意味不明な台詞とか、突然の理解できないカットの切り替えとか、そういうのが全て理解できるようになる。一周目は多くの視聴者は主人公でありヒロインでもあるドロレスに感情移入しながら観るだろう。そして二周目は「はいはい、なるほどね~、それがあれなのね~」などと一々頷きながら、俯瞰的に物語を鑑賞できる。そんな訳でこのドラマは二度美味しい。

何が一番すごいかというと、やっぱり叙述トリックじゃないかと思う。小説とかで言われるやつだ、映像作品では何と表現するのか知らないが、あのあえて語らずに読者にミスリードさせるあれだ。その塩梅が素晴らしい。難解ではあるが、実は結構親切に演出されていて、解くのが無理ゲーというほどでもない。いくつか終盤で怒濤の勢いで明かされる真実があるのだが、勘のいい人や観察力のある人はその前に既に気付くかもしれない。

本作での最大の叙述トリックは、「アンドロイドは年を取らない」という所だったと思う。年は取らないし、外見も同じだ。けど人間は老化する。この二者の決定的な違いを上手く演出に落とし込んでいた。もう全部語り尽くしたいんだけど、これで興味を持って観る人も居るかもしれない。そのため今回は抑えておく、いつか書くかもしれないレビューの方で爆発させたい。もう少し後の方に書くグッときた!ポイントではネタバレ構わず書きまくるので、未見かつ鑑賞予定の方は踵を返してページを閉じるように。

 

フォード博士という最高のキャラ

このドラマは群像劇で色んな登場人物が出てくるが、人間役もアンドロイド役もみんな魅力的だ。あえて主人公というものを考えてみるとドロレス、ウィリアムあたりなのかと思うが、脇役も負けず劣らず良い。その中でもパークの共同創設者にしてアンドロイドの設計者でもあるロバート・フォード博士が最高に好きである。演じたのはレクター博士で有名なあのアンソニー・ホプキンス。知的で不気味でどこか底知れない学者、なんてのをやらせたら右に出る者は居ない。お目々もきれいでこのおじいちゃん大好きである。

このフォード博士、まずラスボス感がすごい。パークの裏方は、そこの社員と親会社のデロス社からの介入者とかも入り乱れていつもごちゃごちゃやってるのだが、その若造達ではフォード博士には太刀打ちできない。「あの爺さんとっとと引退しねえかな」と思われているが、誰よりも知恵が働き、何よりパークの創設者で全てを把握し管理しているので、若い連中が何を企もうといつもフォード博士が2枚も3枚も上手である。

このドラマは言ってしまうとフォード無双なのだが、レクター博士なので何だか妙な説得感がありそんなもんかと納得してしまう。

フォード博士は一々台詞もインテリっぽくてかっこいい。あの引用大好きの学者みたいな台詞回しのやつだ。何を喋るにも、必ず一つは何か知的な引用をする。引用をしてからしかお喋りが進まない。でもこの難解な引用で聞く者を煙に巻きながら、そこに自分の真意や主張をひっそりと潜ませる感じが好きだ。年取ったらこういうジジイになりたい。

じいさん繋がりだと、黒服の男も二番目に好きだ。こちらは名優エド・ハリスである。とにかく渋い。しわくちゃの顔が良い。吹替え版で観たが声優さんの声もばっちり合ってる。S2は声が変わってるそうで残念。

 

グッときた!ポイント

本ドラマの好きな箇所を無差別列挙。随時更新されるかも。鑑賞済みの方のみ観ることを推奨する。

・ウィリアムの帽子の色。まだ善人の仮面を被っていた最初は白を選んだのが、本当の自分に気付いたら黒を被るという演出が最高。黒い帽子を被るところからの老ウィリアムへのカット切り替えはシビれる。

・アンドロイドの記憶の混濁と、3つの時系列をバラバラに並べたカットを利用しての叙述トリック

・OPの「ピアノ演奏するアンドロイドの手が鍵盤から離れると実は自動演奏だということが分かる」シーン。自分では自由意志だと思いながら、用意されたプロットに従わされているに過ぎないホスト達の哀しい運命を暗示させる素晴らしい演出。ピアノの自動演奏は今作の重要なメタファーとして機能している。

・エピソード1ラストのヘクター強盗シーン。「Paint it Black」のオーケストラアレンジ、あれが最高にかっこいい。もうみんなあそこのシーンで「このドラマ最後まで観よう」と心に決めたに違いない。

・アンドロイドと技術者が会話している時の「解析しろ」。あの一瞬で表情から人間的感情が失われるという、暴力を使わずに非人道的扱いを表現するのに非常に効果的な演出。恐怖の後にすぐ笑顔を見せるクレメンタインの例のあのシーンも役者さん上手いなぁと感心。人から感情(の発露)を奪い去るとはどういうことなのかよく分かる。

・劇中で何度も流される、みんな大好きドビュッシー

・ロックバンドとかの曲をピアノアレンジして酒場で流すところ。西部開拓時代にあるはずのない曲が流れてるところ、ちょっとバイオショックインフィニットっぽい。

・ドロレスの彼氏っぽく見えるけど、自分探しに忙しい彼女のせいか最後までいまいち結ばれることもない不憫なテディ君。でもドロレス一途なテディ。頑張れテディ。

・台詞回しがかっこいいけど、単にスカしたこと言ってるだけじゃなく脚本上の無駄も無いところ。

・クレメンタイン、ヘクター役の俳優さん(調べてみたら「300」のクセルクセスだった)のエキゾチックなお顔。

フォード博士の全て!

 

マイ・フェイバリット・トラックリスト(劇中曲)

本作の音楽はRamin Djawadi氏の作曲。ゲームオブスローンズの作曲と同じ人だ。GoTでもデナーリス関係の曲は壮大で好きだった。

・「Main Title Theme - Westworld」OPテーマ。
・「Sweetwater」始まりの町・酒場のテーマ。
・「Paint It, Black」E1クライマックスの強盗シーン。シビれる。
・「This World」ドロレスが「世界は醜いと言う人も居る...」って言い出す時に大体かかる曲
・「Dr. Ford」フォード博士のテーマ曲。哀しげで思索的な旋律。
・「Nitro Heist」「Sweetwater」のアレンジ
・「House of the Rising Sun」有名なトラディッショナル。西部によく合う
・「Memories」
・「Do They Dream」
・「Bicameral Mind」題名は「二分心」という意味